毎日ピアノの練習に勤しむあなた、
いつも、こう思っていることでしょう。
もっと上手くなりたい!
私ももちろん、上手くなりたいと思っています。
ところで・・・
上手くなるってどういうことなのでしょう?
あらためて聞かれると答えに困りませんか?
上手くなりたい!
って言っているだけで上手くなれればいいのですが・・・
現実は、
上手くなるって
どういうことかわかって
上手くなるように練習しないと
上手くなることはできませんよね。
・・・ということでうまくなるってどういうことか考えてみました。
”上手くなる”は普段2つの意味で使う
”上手くなる”
とひと口に言いますが、実は2つの意味で使っています。
ひとつは、
技術的に難しい曲が弾けるようになること。
もうひとつは、
一見やさしそうな曲でも感動する演奏、究極、たった一音を奏でただけでもなんか違う演奏。
順に考えてみましょう。
”上手くなる”その1.技術的に難しい曲が弾けるようになること
”上手くなる”その1は、
技術的に難しい曲が弾けるようになること。
リストのラ・カンパネラとか、ショパンの英雄ポロネーズとか弾きたい!
と思っても、大多数の人はそう簡単に弾けるわけではありませんよね。
それなりにスキルがないと弾けません。
無理やり根性で頑張っても、弾けるようになる前に手を痛めるのがオチです。
”上手くなりたい”
=テクニックがある
=指が超絶速く廻って、オクターブや和音がかっこよく弾けて、憧れの難曲・大曲が弾けること
というのは、一般的なイメージでしょう。
”上手くなる”その2. たった一音奏でただけで違う
”上手くなる”その2は、
一見やさしそうな曲でも感動する演奏、究極、たった一音を奏でただけでもなんか違うって思わせる人たちがいます。
一見やさしそうな曲で感動する演奏の代表例は、2005年ショパンコンクール一次予選でラファウ・ブレハッチが弾いたショパンのプレリュードOp.27-7。
弾き始めた時、審査員たちは涙したと伝わっています(↓1’00すぎから)。
太田胃散のCMでおなじみのこの曲、音符は少なく短いので、譜読みして弾けるようになるところまではやさしいです。
しかし、こういう曲を聴いている人が涙するように演奏するのは並大抵のことではありません。
もうひとつの、”たった一音奏でただけでも違う”というのは、ピアノ四重奏やデュオなどの室内楽で時々出会うのですが・・・、
調弦のために奏でる「A」の音が
「わ~!美しい!!!」
という人たちがいるのです。
たったひとつの音を奏でるだけなのですから、ピアノの場合、鍵盤を押し下げさえすれば誰でもできると思うでしょう。
ところがこれがそう簡単ではなくて、調弦の時の「A」の音は演奏そのものへの期待とイコールです。そして、たいていその印象は変わることはありません。
素晴らしいアンサンブルを聴かせてくれる人は、調弦の「A」の音だけで
「わ~!美しい!!!」
と幸せにしてくれます。
”上手くなる”とは音でいかに豊かな世界や物語を表現できるか
”上手くなる”は
- 技術的に難しい曲が弾けるようになる
- 一見やさしそうな曲でも感動する演奏、究極、たった一音を奏でただけでもなんか違う
のふたつの意味で普段使っていますが、このふたつは決して別々の話ではありません。
突き詰めれば、
音でいかに豊かな世界や物語を
自由に思い通りに表現できるか
に尽きます。
”上手くなりたい!”
と思う時、それは
自由に、思い通りに弾きたい!
という想いがあることでしょう。
素晴らしい作品の素晴らしい演奏を聴いた時に心の内に湧き起こる
「弾きたい!」
という気持ち。
その気持ちのままに弾けるようになりたい
=上手くなりたい
ではないでしょうか。
歌う音と超絶技巧は別物ではない
ピアノは鍵盤を押し下げさえすれば簡単に音が鳴ってしまいます。
モノを落としても、ピアノはピアノの音が鳴ります。
でも・・・
「棒弾き」とか、「歌えてない、もっと歌って!」とか言われるのは、そもそも出している音が、音楽を紡ぐ音ではなく、鍵盤にモノを落とした時に鳴るノイズと同じ種類の音だからです。
そして、ノイズと同じ種類の音を出すタッチでは、速く弾くことも和音やオクターブを鮮やかに弾くこともできないのです。
ホロヴィッツは、ある時その超人的テクニックの秘密を尋ねられ、子供っぽい笑みを浮かべてひと言、
ベルカント!
と答えたそうです。
だからピアノで歌うためには、
声楽家が発声練習をするように
弦楽器奏者がボーイング練習をするように、
管楽器奏者がロングトーン練習をするように
ピアノもタッチの基礎練習をお勧めします。

本当に素晴らしい演奏をする人たちは、響きが美しいですよね。
それは、美しい響きを生み出すタッチでなければ、速いパッセージを弾くことも、オクターブや和音の連続を鮮やかに弾くこともできないからです。
豊かな世界は楽譜から読み取らなければならない
もうひとつ、とても大切なことですが・・・
豊かな音楽の世界というのは、好き勝手に作り上げるのではなく、
楽譜から読み取らなければならない
ということです。
それは、外国語で書かれた文章の意味を理解するのに似ています。
音で描かかれているものを読みとり、理解しなければなりません。
音には意味があって、
フレーズが表してものがあって、
そして、ハーモニーが表すドラマがあり、
リズムが語るものがあって・・・
要するに、楽譜は演劇の台本とか建築の設計図に似ていて、そこから読み取らなければなりません。
書かれている音符の鍵盤を押すだけでは音楽にはならないのです。
技術的に難しい曲も、意味があってそうなっているのです。
意味がわかったからと言って、すぐに弾けるわけではありませんが、意味がわからなければ永遠に弾けません。意味不明な早口言葉を覚えられないのと同じように、音楽も意味不明では弾けるようになりません。
一見やさしそうな曲も、その世界を表現するために必要十分な音が少なめというだけです。音が少ないということは、それだけ一音が持つ意味が大きいということなので、決してやさしくはないのです。