楽器を演奏するということは、
楽譜に描かれた《音楽》を演奏するということ。
何を表現しているのか、聴いている人に伝えること。
PCで文章入力するのとは違い、楽譜に書いてある音を並べるだけでは《音楽》になりません。
けれど、楽器を演奏するのは大変なことで、ともすれば楽譜に書いてある音を楽器で鳴らすことだけで精一杯で、《表現》にならないというのはよくあること。
コンクールで入賞するほど優秀な千葉県船橋市立の小学校の弦楽部の生徒たちも例外ではなく、「楽譜通り弾くこと」に一生懸命で感情表現が苦手・・・
そんな彼らが、元ウィーンフィルコンサートマスターのダニエル・ゲーデ氏のレッスンで、表現することの楽しさに目覚め、活き活きと演奏するようになりました。
演奏する上で、本当に大切なことを教えてくれたダニエル・ゲーデ氏。
NHK BS1で放映された「奇跡のレッスン 弦楽器編 ダニエル・ゲーデ」をレポします。
いい演奏家とは音で物語を作れる人なのです
ゲーデ氏は、若干28歳でウィーンフィルコンサートマスターに就任したにもかかわらず、7年後、「子供と一緒にいる時間が減るから」という理由で退団し、ニュルンベルク音楽大学ヴァイオリン科教授となりました。
何より家族が大切だというゲーデ氏のレッスンは、「演奏は感情の表現」ということに尽きます。感情を楽器に吹き込むこと。
ビブラートは心の響きなんだよ。
音楽って感情を伝えるものなんだよ。
(日本では)まず弾けるようになってから表現を何とかしようという考え方や指導が見られますが、ゲーデ氏は”感情表現はどんなレベルでもできるものです”と語ります。
なぜなら・・・
自分が本当に心から楽しまなければなりません。
そうしないとお客さんを感動させられないんだ。
コンサートがあると練習に追われてしまいまうんだけど、”何のために練習しているのか”それを忘れないことだと思います。
何のために練習するかというと、《演奏》するためですよね。
演奏は、聴いている人に作品の世界を伝え、共有することです。
基礎練習さえ感情表現なゲーデ氏のレッスン
弦楽部の日頃の練習風景として、メトロノームをかけてボーイングや音階、ビブラートを練習するシーンがありました。日本で楽器を習う人にはお馴染みのことですが、その時のゲーデ氏の微妙な表情・・・
よい演奏家とは、様々な技術を使って音で物語を作れる人なのです。
そう語るゲーデ氏は、子供たちのために新しい基礎練習を考えてきました。
単純な音階に”音色”を付けていきたいと思います。
まずは楽しい音階にしましょう。
弓はこんな感じかな(軽く弾む感じ)。
楽しむ準備はできた?ちょっと笑った方がいいかもしれないね。
(生徒たちはウキウキと身体を揺らしながら楽しそうに音階練習)
今度はどうしようか?
悲しい感じ(←生徒からの提案)。
いいね!ちょっと前かがみになって。。。
次はふたつ組み合わせようか。悲しく始めて(・・・だんだん楽しく)
今やった基礎練習を活かしてディズニー(ホール・ニュー・ワールド)を練習しよう!
キラキラした音色が出せるように姿勢を正そう。
「楽しいな~!」それを体でも伝えるんだ。
そうやって音楽でお客さんのハートをつかむんだ!
最初は戸惑っていた子供たちですが、感情を表現することに一生懸命チャレンジし、夢中になっていきました。
表情からも、真剣に試行錯誤している様子が伝わってきます。
その様子にゲーデ氏は、リスペクトを込めてこう語りました。
自分が持っている感情を音で表現する、それができるようになるには時間や慣れが必要です。
「笑いなさい」と言われて笑えません。
まず子供たちは心から楽しい気持ちになってほしい。その気持ちを自分で作れるようになればと思うのです。
でもみんなの前で自分の気持ちを出すことを躊躇する子もいるかもしれません。
それはとても難しいことですから。
みんな気持ちを音に乗せようと頑張っています。
褒めても褒めたりないくらいです。
必要なものはみんな自分の中にある
私は、ピアノが好きで音楽が好きで、子供の頃から何時間でも弾いていたい人なのですが、凡人の悲しさでかなりのコンプレックスに悩まされています。
技術的なことももちろんなのですが、何となく恥ずかしくて感じていることを思いきって表現できないという悩みもあります。
そんな私に、ゲーデ氏のレッスンはとても参考になりましたが、中でも、コンサートマスターである6年生の男の子に語ったこの言葉は深く響きました。
必要なものは、みんな自分の中にある。あとは自分を信じて出すだけなんだ。
自分にはできる。表現できる。ぼくはロックスターだ!
自分を信じれば、大きな力になるんだよ。
自分を信じて!
とか、
自信を持って!
と、よく言われますが、今ひとつピンと来なくて、「何を根拠に自信を持てばいいんだ・・・」とつまらない突っ込みを入れてしまっていました。
でも、ゲーデ氏が演奏しながら語るその言葉に、理屈を超えた《真理》みたいなものを感じたんですよね。
「信じる者は救われる・・・」じゃないですけれど、突っ込みを入れていたって永遠に自信なんか持てないし、弾けるようにもならないとパッカ~ン!な気分。
何より大切なのはメッセージを届けたいという気持ち
レッスンの最後には、保護者の方々などを招いて演奏会が開かれました。
プログラムは、
- ヘンリー・パーセル『アブデラザール、またはムーア人の復讐』より「ロンド、エアー」
- アラン・メンケン『ホール・ニュー・ワールド』(ディズニー映画『アラジン』テーマ音楽)
子供たちの等身大の感情が活き活きと表現された演奏に、思わずぐっと来ました。
会場の父兄たちも万感の様子。
正確に弾くための技術はもちろん大事です。
でも音楽で何より大切なのは”聴く人にメッセージを届けたい”という気持ちなのです。
音楽は心に届けるメッセージです。
最後はゲーデ氏の演奏でタイスの瞑想曲。
ご本人は言葉にこそしませんでしたが《愛》に尽きると思いました。
データ|『奇跡のレッスン』弦楽器編 ダニエル・ゲーデ
「奇跡のレッスン 弦楽器編 ダニエル・ゲーデ」
【放送】2018年8月5日(日)NHK BS1
前編 よる10:00-10:50 後編 よる11:00-11:49
【講師】ダニエル・ゲーデ(元ウィーンフィルコンサートマスター)
『奇跡のレッスン』番組HP
http://www4.nhk.or.jp/wonderlesson/
ダニエル・ゲーデ オフィシャルサイト
http://www.gaede.jp/