いきなりなタイトルで恐縮ですが・・・
ピアノは、魅力的な曲が膨大にある素晴らしい楽器です。
ですが、現実問題、決して簡単ではありません。
「そんなことわかっているよ」
「だから、毎日練習しているんじゃないか!」
という声が聞こえてきそうですが、私がこれから書くのは、そういうことではないのです。
ピアノには、他の楽器にはない独特の難しさがあります。他の楽器というのは、たとえばヴァイオリンやフルートetc…です。
なんで、夢や希望に水を差すような話をするのかと言ったら、
知ってさえいれば、出来ること
そのつもりでやりさえすれば出来ること
をきちんと学ばない(先生が教えない)ために、いたずらに悩む人が少なくないからです。
いたずらに悩む時間を、(地道ではありますが)効果的な練習にあてれば、もっと素敵に演奏できて、音楽の素晴らしさにより感動し、ピアノという楽器の可能性に驚き、もっと好きになるはず!
そのためには正しい情報を得ることが第1歩なり!
ということで、ピアノを弾くこと、特にクラシックピアノの作品を弾くのは、決して簡単ではない理由について書きます。
ピアノは簡単に音が鳴ってしまうゆえに難しい
ピアノが人気なのは、とりあえず、誰が触れてもそれなりにピアノっぽい音が鳴るので、弾けるような気になりやすいというのがあるかもしれません。
これが、ヴァイオリンだと、まず音を出すのが大変なことを多くの人が知っています。
ヴァイオリンの音色はビロードにもたとえられる柔らかく、つややかなものですが、それは、地道な日々の練習によってはじめて得られます。
私は18歳から4年間だけヴァイオリンを弾きましたが、最初に楽器を構えた時には拷問かと思いました。その音は確かに「ギギギ・・・ギ~~~」と聞きしにまさるものでした(笑)
音を出すのが大変だし、音程は自分で作らないといけないし・・・
とにかくヴァイオリンは大変です。
(でも、弾けるようになりたかったので頑張りましたよ。その話はまた別の機会に・・・)
じゃあ、フルートはどうか?
これも決して簡単ではなくて、いきなり音が鳴る人はまずいません。最初はむなしく息の音がするだけです。
そこへいくと、ピアノは誰が触れてもそれなりのピアノっぽい音が鳴ります。
・・・が、しかし!
簡単に鳴ってしまうがゆえに、違いがわかりにくく、根本的な問題がないがしろにされがち!
根本的な問題がないがしろにされる結果、いつまで経っても思うように弾けないのです。
たとえば・・・
ピアノを弾く人の最大の悩みと言ったら、
歌えない、レガートができない
ですが、これは、結局、歌える音・レガートができる音の出し方を知らないこと、知らないから出来ないのが現実です。
歌える音とは、タッチ、つまり、鍵盤をいかにコントロールしてダンパーとハンマーの動きをコントロールするかです。
ピアノは簡単に音が鳴りますが、ただ「ボン」「カタン」と鍵盤を下げただけでは歌える音にはなりません。
歌える音とただ「ボン」「カタン」と鍵盤を下げただけの音とどこが違うのか?
この違いは、ヴァイオリンやフルートのように誰の耳にもわかるようなものではないのが難しいところです。でも、
この違いが結局、弾ける人と弾けない人を分けるのです。
弾けるようになりたいなら、歌えるタッチを習得しなければなりません。
ちなみに・・・
ピアノの練習というと、ハノンのような指を動かすものを思い浮かべる人が多いみたいですが、ハノンは基礎ではなくて、むしろ特殊練習の類です。ざっくり言うと、80%出来ている人が限りなく100%に近づくための練習と思っていいです。
ピアノはひとりオーケストラ、しかも指揮者も自分
小・中学校の吹奏楽部が素晴らしい演奏をするのに驚かされたことありませんか?
私は中学時代に吹奏楽部でアルトサックスを吹いていましたが、私も含めて、部員全員が中学入学して楽器を始めました。(コンクールの常勝校はどうかわかりませんが)私の中学は創立5年目の新設校だったので1年生の初舞台は秋の文化祭でした。つまり、楽器を初めて持って半年後には一人前の顔して舞台で吹き、全体としてそれなりの演奏をしているのです。
なんでそんなことができるのかと言ったら、
♪ ひとりじゃなくアンサンブルであること
♪ 指揮者がいる
からです。
特に指揮者の存在は大きいです。ひとりで個人練習している時には吹けてていなくても、アンサンブルの中に入って指揮者に振られるとなんかそれっぽく吹けけちゃうんですよ(笑)つまり、指揮者によって自分の限界を超えられるという面があります。あと、やっぱり、一緒に演奏しているメンバーに助けられるというのもとても大きいです。
ところが、ピアノひとりで全部弾かなければなりませんし、指揮者の役割も自分がしなければいけません。
指揮者というのは、あるべき音楽を実現するために全体をまとめてリードしていく役割を担っていて、「指揮のテクニック」というのももちろんありますが、指揮者の勉強は「音楽・作品」についての研究が大半で、つまり、音楽について深い理解があるのです。
ピアノが難しいのは、本来なら、少なくとも数人のアンサンブルで演奏する音楽をひとりで演奏すると同時に、指揮者の役割も自分でしなければならないことです。
つまり、ピアノは
指揮者も団員も自分ひとりのオーケストラ
ピアノは右手と左手が別々のことをしなければならないから難しいと言われますが、音楽的には右手と左手で二役どころではありません。一体ひとり何役しなければならないのでしょう。
たとえばワルツ。右手がメロディー(1本)で、左手が伴奏だとしたら、アンサンブルなら最低3人必要です。なぜなら、たとえば、
♪ メロディー:ヴァイオリン
♪ 左手の1拍目:チェロ
♪ 2・3拍目はヴィオラ
だからです。
「そんなことどーでもいい、とにかく弾ければいいんだから・・・」
って思っている方がいらっしゃるかもしれません。でも、残念ながら、これをどーでもいいと思っているから練習してもなかなか思うように弾けるようにならないのです。
あるレベル以上に弾ける方なら同意してくださると思いますが、音楽的な内容を無視して、とにかく何とか音を並べようとしても絶対に弾けるようにななりませんよね。とりあえず何とか並べても結局行き詰まってやっぱり無理矢理弾くっていうのは無理だよねと苦笑しながらやり直しっていう経験ありませんか?(絶対にあるでしょう、ええ、私も山ほどあります)
音楽って本当に不思議というか情け容赦ないというか・・・
音を並べてイコール音楽じゃないんです。
内容を理解し、あるべき姿をイメージしながら、コツコツ練習しないと弾けるようにならないのです。
だから、ソルフェージュや楽典などの音楽そのものの理解を深める勉強が絶対に必要です。
これは、趣味だから要らないという問題ではありません。(大人になってから)外国語を学ぶなら文法や構文の勉強が必須のように、ピアノを弾きたいなら、音楽そのものについて理解しないと結局弾けるようにならないのです。
人気の名曲は天才たちが凌ぎを削って描いた作品ばかり
クラシックピアノの人気曲といえば、ショパンのワルツやノクターン、リストのコンソレーション、愛の夢第3番、ドビュッシーの月の光・・・ですが・・・
これらの曲って、実は、天才たちが、かなり気合入れて描いた作品です。だから聴いた印象からは想像できないくらい難しいんです。
それは、たとえば食べてうっとりするような極上スイーツを作るのが大変なのに似ています。スイーツは自分で同じように作るのが難しいことは容易に想像できますが、ピアノは作品の魅力に催眠術にかかるかのように「弾きたい!」という罠にはまってしまうのです(私もそのひとり・・・)
なぜ罠にはまってしまうのかと言ったら、そもそも、聴衆をうっとりさせるように描かれた作品だから、です。
ロマン派の時代(ショパン、リストの時代)、そして、ドビュッシーもピアノ音楽というのは”サロン”で発展してきました。当時のサロンというのは、昨今流行りの女子会のマダムバージョンではありません。女性の社会進出が叶わない時代に才気あふれる(持て余した)女性たちが館に政財界・芸術などあらゆる分野の大物・著名人たちを招き、人脈をつなぎ、密かに政治・経済・社会を動かしていたとさえ言われる場です。
ちなみに、リストはサロネーゼだったマリー・ダグー伯爵夫人と駆け落ちしますが、これ、現代なら、新進気鋭の若きピアニストが大臣夫人とか社長夫人をかっさらって海外へ逃避行みたいな感じです。
話を戻して・・・
教養あり、耳も超えたサロンの客たちを魅了することで、音楽家としての自分を認めてもらい続ける(=生きていく)場=「サロン」で演奏する作品なのですから、魅力的なのは当然といえば当然で、もれなく演奏するのはそう簡単ではないことが想像できると思います。
まとめ|ピアノが簡単ではない3つの理由
ピアノは素晴らしい楽器ですが、現実問題として簡単ではない理由を3つ書きました。
- 簡単に音が鳴るゆえの難しさ
- 指揮者も自分のひとりオーケストラ
- 人気の名曲は天才たちが凌ぎを削って描いた作品ばかり
じゃあ、どうしたらいいのか?
本当に弾きたいなら、覚悟を決めてとことんやりましょう!
これは、練習(勉強)時間の長い・短いを言っているのではありません。
本当に弾きたいと心惹かれたなら、妥協しないで本質から勉強することをおすすめしますし、そういうレッスンをしてくださる先生につきましょう。腰を据えて勉強することではじめて見えるものが沢山あるからです。勉強すればするほど面白くなるし、奥が深いこともわかります。
今、出来ないことが出来るようになる一方で、あらたな難しさに気づくことでしょう。
でも、音楽や芸術ってそういうものです。
遠慮する必要はありません。
「趣味なんだし、そこまでしなくても十分楽しい・・・」
とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、ピアノとどう関わろうと人それぞれです。
しかし、そこで留まるには、もったいない、魅力あふれる世界なのです。。。
ピアノを弾くこと、日々の練習はゴールのない旅のようなものです。
その瞬間出会うすべてが驚きと感動に満ちています。。。