ショパンコンクールは1次予選の全日程を終了して通過者が発表になりましたが、マイペースで1次予選後半の雑感です。
1次予選前半はこちら↓
【雑感】2021ショパンコンクール1次予選前半を聴いて
人間はミスを犯す
コンクールの緊張って演奏会とは違うんですよね。経験者なら同意してくださるでしょう。巷にあふれる誰でも参加できるコンクールしか知りませんが、それでもホントに異常に緊張します。
まして国際コンクール、それも世界三大コンクールのひとつとして全世界の音楽関係者、クラオタ、ピアノオタクが注目していているショパンコンクールのプレシャーや緊張はどれほどか・・・想像するだけでびびります。
そんなことでびびっているからダメなんだ・・・と言われるでしょうが(と言うか、かつてホントにそう怒られまくった)ショパン本人はこんな舞台には絶対に出てこなかったと思うんですよね。無理やり引っ張りだそうとしても瀕死の仮病を装ったりして(いや、出ろと言ったらホントに病気になったかも)絶対に拒否したと思います。
コンクールの緊張が演奏会と違うのは、注目度の高さ、そして比較されて順位をつけられるという自分にはコントロール不能の結果が明暗を分けるということ。大きなコンクールほど文字通り人生を大きく左右します(ホントはコンクール歴がなくても活躍している人も沢山いるんですけれど・・・)。
邪念は振り払って音楽に集中するべき、それこそプロだろうと正論をぶちまけるのは簡単ですが、そこは人間のかなしい性・・・アドレナリンは全身を駆け巡って心拍数はあがり、身体が硬くなったり、指が震えたり、汗ばんだりして、コントロールが怪しくなり・・・普段ならあり得ないミスは起きます。
・・・と言うか、緊張しているからこそ湧くインスピレーションもあって、思わず・・・というミスだってあります。そういう演奏を聴けることもコンクールの楽しみでもあります。
ともかく、人間はミスをおかします。リスク管理の基本であるこの原則は演奏を聴く姿勢としても心得ておきたいもの。
思いだすのはカザルスとピアティゴルスキーのエピソードです。Twitterで見つけたもので座右の銘にしています。
とある実話。
— noburin (@noburin2828) April 15, 2019
ピアティゴルスキーというチェリストがまだ新人だった頃、演奏会で聴衆の中に、巨匠カザルスの姿をみつけ、すっかり緊張してあがってしまった。やっとのことで演奏を終えた時、客席からカザルスが盛んに拍手を送っていてびっくりさせられた。(続く)
一連のツィートをまとめると・・・
とある実話。
ピアティゴルスキーというチェリストがまだ新人だった頃、演奏会で聴衆の中に、巨匠カザルスの姿をみつけ、すっかり緊張してあがってしまった。やっとのことで演奏を終えた時、客席からカザルスが盛んに拍手を送っていてびっくりさせられた。後年、ピアティゴルスキーも立派なチェリストになったある日、カザルスに出会って食事をしていた際、「なぜ自分の新人時代、聴衆になって下さって、明らかに下手と思われる自分の演奏に対して、なぜあんなに盛大な拍手を送って下さったのですか?」と彼はその訳を尋ねた。
するとカザルスはそれに答えて、手許にチェロを持って来て「あなたはあの時、左手でチェロをこうかかえて、右手の弓をこう使って、この曲のあの一節をこう弾いたね。その中の一つの音は、私が長い間捜し求めていた音で、私はとても感動したよ」彼はそう答えた。
「あとは」カザルスは吐き捨てるように言った。「ミスばかりあげつらってもののわかっていない連中には言わせておけばいい。たった一つの言葉、たった一つのフレーズに私は感謝することができる。君もそうしなさい」ピアティゴルスキーはカザルスの真の偉大さをこの時に知った。
もうホントにこれに尽きると思います。
仮に本当に準備不足で不出来な演奏だったとしてもそんなことは本人が一番わかるはず。わからないようならそこで終わりですから迷う余地なしスルー一択です。
ということで、結果と関係なく1次予選後半で個人的に印象に残った演奏を備忘録的に。。。
個人的に印象に残った演奏の備忘録
1次予選通過者は発表になりましたが関係なく私のお気に入り備忘録です。
ALEKSANDRA HORTENSJA DĄBEK
ALEKSANDRA HORTENSJA DĄBEK さん、容姿も美しいですが演奏もホントに美しいです。あんまり外見に左右されないつもりですがこの人はホントに美しい。特にバラード3番の美しさが際立って惚れ惚れします。9小節目、fの和音の目が覚めるような美しさ!その後も妖精のように美しく可憐です。
ALBERTO FERRO
ALBERTO FERROさん、以前から好きだったけれどノクターン16番はホントにとろけました。イタリア人に口説かれたってそんなの社交辞令、「おはよう」と同じだってことはわかっていても、やっぱりいい気分になるよね・・・そう思っているところへ、いやいや本気だよと昇天させられたような舟歌でした。これこそ聴く幸せ。。。
MARTÍN GARCÍA GARCÍA
MARTÍN GARCÍA GARCÍAさん、いきなりOp.25-4で始まりびっくりですがスペイン人らしいノリノリのリズムが楽しい!Op.10-4のコントラストも面白い!こんなに陽気なノクターン16番ははじめて!大らかに朗々と歌うバラード1番も新鮮!控え目にいって大好きです。。。
ADAM KAŁDUŃSKI
ADAM KAŁDUŃSKI さんは初めて聴きましたが、最初の一音からクラッと来ました。繊細なノクターンOp.62-1、ユーモアあふれる華やかなOp.10-5、マグマが噴出するかのようなOp.25-10、そしてバラード4番の最初の3音でとどめを刺されて次の下降音型で正体なくしてあとは夢の中です。。。
NIKOLAY KHOZYAINOV
NIKOLAY KHOZYAINOVくんは2010年からの大ファン!予備予選では「もう彼が優勝でいいんだけど・・・」と思いましたが、またまた化けていて恐ろしいほどでした。暗闇にたたずむ孤独という言葉さえ似つかわしくないほどの深いOp.25-7、冷静に燃えるOp.25-10、あえて素朴に歌うOp.25-11、そしてバラード4番は、言葉なく黙るしかありません。
以上、私のお気に入りピアニスト備忘録でした。
2次予選の顔ぶれを見ると、男女比=36:9。男性が女性の4倍です。
傾向として、美しくても線の細い人、悪く言えば非力な印象の人は消えていますね。
ミスには割と寛大で、熟考していて筋が通っていればかなりユニークなショパンもOK!な印象を受けました。。。
2次予選が楽しみです。。。