第18回ショパン国際ピアノコンクールが1年遅れて始まりました。
始まる前は割と冷めていたのですが、配信をポチっとした瞬間に点火して一瞬で沸点に達してしまいました。
備忘録として綴っていきます。
あらためてラファウ・ブレハッチは凄かったなと思った
年々配信技術が向上して高画質・高音質で鑑賞できるのは嬉しいですが、メディア攻勢も過熱していてコンテスタントを気の毒に感じることも少なくありません。
尋常じゃない緊張は、PCのディスプレイとスピーカーを通しても痛いほど伝わってきます。
予選から全世界へ配信されることは、自分の演奏を聴いてもらえるチャンスですが、どんな演奏になるかは良くも悪くも予測できません。どんなに練習して準備してコンディションを整えたとしても本番というのは”絶対大丈夫!”ということはありません。
それぞれに期待を背負っていて、しがらみもあるでしょう。どんな演奏になるか、それはもれなくその後の自分の人生を大きく左右します。
コンテスタントの心中を察すると、他人事ながら無事に弾き終えますようにと祈るような気持ちになります・・・
実際”狂気”のような尋常じゃない感情が伝わる演奏もあります。それを”熱演”と喜ぶ聴衆も少なくなくて、時にまるで衆人環視の中で行われる決闘のような異様な雰囲気さえ感じる私だけでしょうか。
そんな演奏を聴きながら、ふと2005年のラファウ・ブレハッチを思い出しました。
1975年に優勝したツィメルマン以来30年分膨れ上がったポーランド人の期待を一身に背負った彼のプレッシャーや緊張は凄まじかったと思いますが、彼のコンクールでの演奏は穏やかで静謐で”ショパンの再来”を思わせる素晴らしいものでした。1次予選で彼が前奏曲Op.28-7を弾き始めた時に審査員全員が涙したと伝えられます。ブレハッチの凄さ、偉大さを改めて思います。敬虔なクリスチャンらしいですが、勇気は信仰の賜物なのでしょう。。。
緊張やプレッシャーをバネに熱演というのは一般ウケするのかもしれませんが、ショパンの音楽はそういうものとは本質的に違うと私は思うで、コンクールであることを忘れて楽しめる演奏が好きです。
特に印象に残った演奏の備忘録
備忘録として、1次予選折り返しの3日目(10/5)昼の部までで、特に印象に残った演奏を。。。
Zuzannna Pietrzak
まずZuzannna Pietrzak(Poland)。
7月の予備予選でとても好きだったピアニスト2人のうちの1人です(もう1人はNikolay Khozyainov)。
荒削りな感じはありますが、堂々と落ち着いていてジョルジュ・サンドがショパンを想ったのはこういう感じなのかなと思ったりします。この人、先生の言うこともあまり聞かない頑固な人ではないでしょうか。プラス関西人的に面白い気もします。
Piotr Alexewicz
予備予選免除のPiotr Alexewicz (Poland)は、最初のノクターン第16番の抑制の効いた控え目な表現が沁みました。ショパン自身のこの曲のイメージを思わせるようです。
審査員のひとりダン・タイ・ソンがショパンコンクールに参加した頃と、ヴァディム・ホロデンコが2007年にエリザベートに参加した頃を足して2で割ったような雰囲気、要するに”オタク”。
こういうあっちへ逝っちゃっている演奏がとても好きです。ダン・タイ・ソンのスケルツォ2番に感動した高校時代を思い出し、久しぶりに火が着きました。聴いていると全てを放り出してこの曲を弾きたい衝動に駆られます(この曲は私をピアノに深く引きずり込んだベスト3のひとつです)。
牛田智大
日本人もみなさん素晴らしいですが、特に印象に残ったのは牛田智大さんです。
子供の頃から活躍されていますが、(人知れず消える人が多い中で)立派に成長されて何よりです。
非常に熟考された、稀に聴くレベルの説得力、端正で芯が強く、ショパンらしい貴族的な雰囲気に魅了されます。これは凄いです。。。
1年延期され、このような世界的パンデミックの中で開催され演奏することの意味をコンテスタントがそれぞれに考えたことが伺われ、ただレベルが高いだけでなくとても感動的な演奏が多く後半も楽しみです。
以上、雑感でした。。。