2019年9月16日、とある〈ピアノの会〉の特別企画として開催された斎藤雅広先生の公開レッスンを聴講しました。
かつて「芸大のホロヴィッツ」と呼ばれた斎藤先生も還暦過ぎて・・・
マエストロの風格と生来のユニークなキャラをたたえて、ラフにLevi’sのTシャツで登場。
あふれしたたる豊かな音楽性と超絶テクニックと抱腹トークでピアノ弾きたちを叱咤激励、感服させてくださいました。
よくある公開レッスンというのは新進気鋭の若きピアニストさんが受講生ですが、この日はレベル色々なアマチュアピアノ弾きさん4人でした。
それだけに、
音楽とは何か?
ピアノとどう向き合うのか?
作品を演奏するとはどういうことなのか?
根本的なところをはじめの一歩からわかりやすく解説してくださり、とても実際的で励まされるものでした。
芸大のホロヴィッツと呼ばれた斎藤雅広先生
改めて紹介するまでもない斎藤雅広ですが、ご自身のWebサイトよりプロフィール(簡易版2)をご紹介。
~♪~
東京芸術大学出身。18歳で第46回日本音楽コンクールに優勝、翌年NHK交響楽団との共演でデビュー、「芸大のホロヴィッツ」と称される。
その後、巨匠チェルニー=ステファンスカに才能を認められ内弟子としてポーランドで学ぶ。 高度な技巧に支えられた自由闊達で雄弁なスタイルは絶賛を受け、ウィーンフィルやベルリンフィルのメンバーらと共演を重ねる他、アライサ、クラウゼ、ラ・スコーラ等の世界の名歌手からも信望が厚く、歌曲伴奏でも我国最高の名手という評価を不動のものとしている。
NHK名曲アルバム、ベストオブクラシック、ニューイヤーオペラコンサートなど、数多くの放送に出演。 またNHK教育テレビ「趣味悠々」講師、NHK教育テレビ「トゥトゥアンサンブル」の「キーボーズ」、テレビ東京「たけしの誰でもピカソ」、日テレBS「ブラボー!クラシック」、NHK「きよしとこの夜」「親と子のTVスクール」など、エンターテイメントなTV出演も多数。
NHKニューイヤーコンサート名古屋ほかコンサートの司会も好評。また作曲・編曲も手がけ、多数の楽譜が出版されている。
CDは「ヴィルトゥオーゾ・展覧会の絵」などのソロから室内楽・共演盤など34枚に及び、リリースの度に大きな話題となっている。
2007年にはデビュー30周年を迎え、記念コンサートを大成功させ、2012年はデビュー35年記念盤『79年のリサイタル』 が音楽各紙に絶賛され、その存在感をさらに大きくした。 今、日本で最も広いファン層と知名度を持つベテラン・アーティストとして、文字通りマルチな活動を展開中。
http://www.masahiro-saitoh.com/より
受講曲目
受講曲は以下の4曲。
- ショパン /ワルツ No.10
- チャイコフスキー/『 四季』より「10月」
- スクリャービン/エチュード Op.2-1, Op.8-12
- ビュッシー /『喜びの島』
1人30分のレッスンは最重要ポイントをしぼってテンポよく進められました。
永久保存版!ピアノ弾き4か条
全体を通じて共通していたポイントは4つ。
まさにピアノ弾き4か条としてピアノ室に掲げたい内容でした。
- フレージングとアーティキュレーション
- ペダル
- 構成
- 作品の根本にある感情
順に解説します。
フレージングとアーティキュレーション
フレージングやアーティキュレーションは楽譜をよく見て丁寧に練習すること。
面倒でも最初にちゃんとよく見る。
そのためにも、信頼できる楽譜を使うことが大切。
ペダル
ペダルは書いてあるから踏むのではなく意図をよく理解して踏むこと。
意図とは、響きに変化を付ける、色彩感を出すなど・・・
また、たとえばショパンなら当時の楽器と現代のピアノでは違うので1小節単位でペダル記号があっても、場合によっては1拍ずつ(あるいはさらに細かく)踏み分ける。
構成
構成をよく考えること。
同じフレーズが何度も出てくる時に同じに弾かない、そこは自由にやっていい(自由には責任が伴う)。
全体の構成を考えて変化させ組み立てる。これ、とても大事。
作品の根本にある感情
作品の根本にある感情は何か?
よく考え、実体を持って弾く。
感情は根拠、根拠ない演奏は空虚。
ミスマッチな感情を入れると違う曲になってしまうのでよく考えること。
指が届かない曲や手に余る曲について
えっと、これは個人的に感じたことですが・・・、
指が届かない作品や手に余るダイナミックスが要求される曲を弾く時にはよほど覚悟を持って取り組んだ方がいいと思いました。
私自身、日頃から感じていることですが、指が届かないとか手に余る曲は練習が行き届いて弾けるようになればなるほどそこが足を引っ張ります。
斎藤先生も、その点について「それでも時間とエネルギーを注ぐほどに“好きで弾きたい”なら、まあいいですが、しかし大変です、物凄く大変です」と暗に熟考を促していました。
ピアノ曲は膨大にあるので、もっと問題の少ない曲にエネルギー費やす方がいいケースは少なくありません。
そこはよく考えて練習した方がいいと思いました。
人生は有限なので。。。
表現はとてもデリケート、ほんのわずかなことで別の曲になってしまう
個人的に興味深かった曲は、『喜びの島』でした。
というのも、どういう曲なのか正体がよくわかったからです。
斎藤先生も繰り返し
「土人の踊り」みたいな演奏をよく聴きますが・・・
とおっしゃっていましたが、まさしくそうとしか思えなくて、良さが全くわかりませんでした。
何で「土人の踊り」になってしまうのか、この曲の本質である”官能”を表現するためにはどうしたらいいのかとてもよくわかり、はじめてこの曲をいい曲だと思えたし、弾いてみたいと思いました。
「土人の踊り」か”官能”か、の違いはとてもデリケートです。
表現というのは何とデリケートなのだろうと改めて思い知らされました。
最後は斎藤先生によるファリャ「 火祭りの踊り」で拍手喝采でした。
斎藤雅広先生、受講生の皆さま、そして企画してくださった関係者の皆様、本当にありがとうございました。