クリスマスイルミネーション輝く銀座の空気を軽く味わい、今年6月にヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝したVadym・Kholodenko(ヴァディム・ホロデンコ)ピアノリサイタルを聴きに浜離宮朝日ホールへ向かいました。
ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールセミファイナルでも演奏したこの曲集。
その時には指定された演奏時間の関係からと思われるがNo.9「回想」をのぞく全11曲だった。
さすがにコンクールのプレッシャーや疲れが垣間見えたけれど、それでも凄いピアニストだな~とため息。。。
会場に到着して、初めてこの日「ファツィオリ F308」が使われる事を知りました。恥ずかしながら、ライブでこのピアノが演奏されるのを聴くのは初めて。
聴衆の入りは上々でざっと見た感じ9割以上。
2011年6月、仙台国際音楽コンクールの優勝記念コンサート時のいささか寂しかった情景を思うと、ヴァン・クライバーンは前回辻井伸行君が優勝して知名度が高いのかな~と思ったり。。。
開幕すると、いつものように、背中丸めて緊張感なくふわふわ(のそのそという説もある)歩いてステージに出てきた。若干、上目遣いで客席をちらっとみてすぐに座って演奏。
演奏を始めると、歩く姿から想像できないほど堂々として大きく見える。
12曲を休憩なしはもちろん、途中で袖に引っこむことなく弾き通した。
印象では、No.1からNo.8に向けてクライマックスをつくり、その後、No.9「緩」、No.10「急」、No.11「緩」その2、No.12「急」=フィナーレという構成でまとめたようでした。
また、その中で、冒頭から2曲ずつ平行調で書かれたまとまりを意識していたと思います。
1曲ずつの技巧に振り回される事なく素晴らしいのはもちろん、12曲でひとつのドラマ、あるいは、オムニバスを形成していて、とても考え抜かれた素晴らしい全曲演奏でした。
1曲ずつ印象をメモ。
No.1 C-dur「前奏曲」
ファイツィオリの明るい響きがこの華やかな曲に合っている。
いつもながら響きの階層が素晴らしく、速いパッセージが何層にも聴こえてきて美しい。
No.2 a-moll
やや抑え気味のテンポでじっくり鳴らされるファンファーレに始まり、速いパッセージも丁寧に描かれる。
No.3 F-dur「風景」
こういう穏やかな美しい世界に、とても深い慰めを感じられるのが彼の素晴らしさでもある。
No.4 d-moll「マゼッパ」
意外におとなしく始まったので少々驚いた。
しかし、聴いているうちに12曲全体の構成を考えている事に気付いた。
また、こんなにリリカルな「マゼッパ」は聴いた事がない!と思うほどに、朗々とメロディーが歌われていて、堂々とした演奏に恐れ入った。
(ファツィオリの)明るくてレジェロな響きはこの曲にどうなんだろうとちらっと思ったかな・・・
No.5 B-dur「鬼火」
こちらはピアノの響きがとても良く活かされていた。
それはそれは軽やかな本当にあちこちに現れては消えるような不思議な光景が広がった。
No.6 g-moll「幻影」
「マゼッパ」と同じく、メロディーがとてもよく歌われていて、曲のフォルムが明解だった。
響きがもう少し深かったら・・・と思ったけれど、彼の責任というよりこれがファツィオリなんだな~とも思った。
No.7 Es-dur「英雄」
よく鳴るピアノだな~と思ったし、軽々と鳴らすピアニストだな~とも思った。
ヴァン・クライバーンの時に、彼の事を「聴衆を手玉にとっているようなところがあって・・・」と評していた審査員がいたと雑誌で読んだけれど、確かにそんなところはある。
手玉に取られても仕方ないか・・・と思うほどに、音楽を掴んでいるし、軽々と弾いて表現してしまう。
No.8 c-moll「荒野の狩り」
「マゼッパ」や「幻影」では控え目だったパッションを初めて表に出した印象。
以前は、もっと音楽に入り込み過ぎな感じや、ピアノに頭突っ込んで行きそうな「オタク」な感じや、作品が持っているパッションに暴走気味な感じがあったけれど、そういう若さというか未熟さみたいなものが影をひそめていた。
良く言えば、大人になったな~、しかし、20歳の頃から知っている私としては、あの暴走も楽しみではあったのだが・・・と手玉にとられながら回想する気分・・・
No.9 As-dur「回想」
いわゆる「ハーフタッチ」の美しい響きで、想いの中を漂うような美しい演奏。
完全に「あっちの世界」へ逝ってしまったような不思議な世界をどうして彼は描けるのだろう。。。
No.10 f-moll
ちょうど今の季節、木枯らしにこの葉が舞うような風景だった。
冒頭から何度も繰り返されるあのモティーフを何でこんな軽々と弾けるのだろうかと首をかしげてしまった。
No.11 Des-dur「夕べの調べ」
穏やかで、厳かな夕べの祈りのシーン。
No.12 b-moll「雪あらし」
曲が進むにつれ調子を上げて、フィナーレにふさわしい盤石の演奏だった。
「マゼッパ」、「幻影」と同じくとてもリリカルで美しいフォルムに大満足した。
演奏終わると、やはり上目遣いに申し訳なさそうに頭下げて、背中丸めて歩いていく・・・
演奏時とのギャップがおかしい。。。
アンコールは2曲
バッハ=ジロティ 「プレリュード」
チャイコフスキー=ラフマニノフ(と思われる) 「ララバイ」
しみじみ美しい演奏。
聴衆はもっとアンコールをと期待して拍手は大いに沸いたけれど、早々と会場が明るくなって「今夜はお開き」と強制終了・・・
終演後はCDが飛ぶように売れていて、サイン会も長蛇の列、スマホのカメラを構える人多数で彼も終始笑顔で応じていました。
とても確かな技巧を持っているけれど、それがどうした?と言わんばかりに「音楽」そのものに真っ直ぐ真摯に向き合っている姿勢は、20歳の頃と全く変わらない。
彼には、何が聴こえて、何が見えているのだろうか・・・
ホントに楽しみな素晴らしいピアニストです。
~♪~
ヴァディム・ホロデンコ ピアノリサイタル
リスト「超絶技巧練習曲集」全12曲 <休憩無し約1時間>
2013年11月22日(金)19:00開演 浜離宮朝日ホール