昨年8月に所沢ミューズでチャイコフスキーピアノコンチェルトを弾いたクルティシェフに私は終演後サイン会でこう伝えました。
I would LOVE to listen to your SOLO recital!!!
あれから1年2ヶ月・・・
はじめて彼をネットで聴いた2007年から9年あまり・・・
ミロスラフ・クルティシェフのソロリサイタルを聴く日がやってきました。
今どき珍しいコンクールと無縁の神童
ミロスラフ・クルティシェフは1985年レニングラード生まれ。母親に導かれてピアノを始め、6歳でリサイタルを開き、10歳でサンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団(指揮:ユーリ・テミルカーノフ)とピアノ協奏曲で共演しデビューを飾る・・・など幼少時より神童ぶりを発揮。
現代では極めてラッキーなことにコンクールと無縁で育った彼でしたが、「今やコンクールを無視してはやっていけない」という師の強いすすめでサンクトペテルブルク音楽院時代の21歳の時、2007年第13回チャイコフスキー国際コンクールに参加、最高位となる第2位(1位該当者なし)を受賞しました。
初来日は翌2008年1月末のチャイコフスキー国際コンクール入賞者ガラコンサート。
もちろん行きましたよ!
チャイコフスキーのピアノコンチェルトの、これまでに聴いたこともないような物凄い推進力とホール中の空気が揺れるような豊かな響きに身体が震えるような感動を覚えました。
最高位=1位なし2位という事情
そんな凄い彼なのに、日本でのリサイタルがなかなか実現しなかったのは、ファンとしては本当にもどかしく、不思議でなりません。
彼の来日は、同じ年のチャイコフスキー国際コンクールヴァイオリン部門で優勝した神尾真由子さんとのデュオばかりでした。(これが縁でおふたりはご結婚されベイビーも誕生しています)
その後2010年に彼はショパン国際ピアノコンクールにも参加し、味わい深い演奏を聴かせてファンを次々に獲得しファイナルまで進むも入賞することはできませんでした。
入賞しなかったので入賞者ガラコンサートに出演することもできず・・・
ファンはYoutubeで配信される彼のソロを聴きながらライブでのリサイタルを待ち望む日々が続きます。
1位と2位の間にある超えがたい溝、
優勝と最高位のはるかなる違い・・・
チャイコン(チャイコフスキー国際コンクールの通称)での最高位=1位なしの2位の経歴が彼に微妙に影響を与え続けたのだとしたら悲しいことです。
熱く濃く心に刻み込まれるような演奏
この日のプログラムはショパンのソナタ2番、ラヴェル「夜のギャスパール」、プロコフィエフのソナタ7番という重量級の曲が並びます。
そのはじまりがリスト「愛の夢 第3番」というのは主催者の要望かもしれませんが、リリカルな彼の良さが聴衆にわかりやすく伝わり、瞬時に会場は夢見心地・・・
クルティシェフらしいふくよかな響きでロマンティックに歌い上げるかと思いきや、早くも彼の持ち味である推進力でぐいぐい引っ張りながら、抑え切れない情熱のまま暴走一歩手前(笑)。
このスリリングな演奏をライブで聴きたかったのだよ・・・とすでに感無量。
想定内の拍手に立ち上がってお辞儀するも、再び座るやいなやショパン「革命のエチュード」では燃えたぎる焔のような演奏。冗談でも誇張でもなくピアノが火を噴いた!!
あっけにとられる聴衆を次はワルツで魅了します。クルティシェフの魅力のひとつが舞曲です。ショパン「ワルツ第5番」は細胞が躍り出すような躍動感、踊るって本能なのだなと感じる活き活きした演奏でした。
舞曲でクルティシェフの右に出る者はいないのではないでしょうか。
一度袖に引っ込んで前半のクライマックス「ソナタ第2番」。エキエル版と思われます(たぶん・・・)。
冒頭のオクターブをどう鳴らすのか息を飲んで待ち構えましたが、静かに厳かになるほど「Grave」の戦慄さえ感じる雰囲気、続いて静かに遥か遠くから聴こえるような第1テーマ。提示部クライマックスへの盛り上げ方がさすが!リピートして2回目は回想のようにさらに静かに始まり一層哀しい。
1楽章終わってまさかの拍手に思わず顔を覆う(><)
畳み掛けるような2楽章がショパンの実は激しい内面を表し、トリオの長く伸びる響きにイタリアオペラを好んだショパンのリリカルを聴かせてくれました。
そして地の底から聴こえるような3楽章。主旋律と左手内声をデュオのように演出、絶望への誘惑のように響きます。
中間部、ダンテ『神曲』での天上の描写を思わせる・・・
あるいは在りし日への追憶か・・・
4楽章は真っ暗な墓場に吹き荒れる風の音。その風の中に姿を消すかのようにお辞儀から頭を上げずにステージを去りました。
彼の濃い響きと熱い演奏は、聴く者の心に音楽を深く刻み込みます。それは彼自身が誰よりも深く音楽に感銘し、作曲家のメッセージを心に刻まれている証かもしれません。
どこでも発火、何でもクルティシェフ
クルティシェフの濃い響きはズシっとお腹にたまります。
後半ラヴェル『夜のギャスパール』でさえもそれは同じ。
「オンディーヌ」って水の精ですが、確かに冒頭こそ透明に始まったものの、徐々に本領発揮でかな〜り熱く情熱的な演奏。
「絞首台」こういうサディスティックなの合ってるかもと思ったな~。実はかなりアブナイ魅力をたたえているのですよね。。。
「スカルボ」も質量のある重量級の演奏です、でもゆるす、だってクルティシェフだもの(笑)
ひと言でいうと、どこでも発火しちゃうんです。そして、何でもクルティシェフになってしまうのです。
キャラ作りの巧みさに惹き込まれたプロコフィエフ ソナタ7番
今日の白眉はやはりプロコフィエフ ソナタ7番でした。作品が身体に入っていて完全に自分のものになっているという域の演奏でしたね。
クルティシェフは演出が見事です。メロディーや声部のキャラ作りがとても巧みで、目の前にストーリーやドラマが広がるように聴かせてくれます。しかもサディスティックだったりユーモアあったりウイットあったり、フェイントあったり・・・本当に面白い。。。
子供の頃からマリンスキー劇場でオペラやバレエに親しんだ彼ならではの、まるで舞台を見ているような演奏に魅了されました。
華やかで濃く熱いクルティシェフワールド
大満足な聴衆の盛大な拍手に応えてアンコール1曲目はチャイコフスキー=プレトニョフくるみ割り人形よりグラン・パ・ド・ドゥ。
華やかなオーケストラ演奏をバックに伸びやかな美しい踊りが見えるようなファンタジーあふれる美しい演奏はまさにひとりオーケストラ+バレエの雰囲気、クルティシェフの本領です。
喜んだ聴衆の鳴りやまない拍手で2曲目はショパン幻想即興曲。
すみれを浮かべたホットチョコレートがお気に入りだったというショパンにピッタリの熱く濃くほろ苦い演奏でした。
クルティシェフは熱く濃いのですが、時々はずしてくれるのですよね。基本的に激情型ですがクールでもあり、その豹変ぶりが魅力でもあるのです。
とっても頭いい秀才なんだけあふれる感情を抑え切れず暴走しちゃってでも破たんはしないっていう感じかも。
要するに愛すべきキャラです。
終演後のサイン会、
Thank you for your fantastic music.
I’m glad to listen to your FIRST SOLO recital in Japan!
I’m very happy!!
と伝えたら、
Oh! Thank you! Thank you! Thank you!!
満面の笑みで返してくれました。
隣にいらした主催者さんも「いや~、よかった!ありがとうございます^^本当に嬉しいです^^」と笑顔。
所沢ミューズさん、ぜひまたクルティシェフのリサイタル開催してください(^^)v
あっ、都心でも嬉しいです。
公演情報|ミロスラフ・クルティシェフ ピアノリサイタル
・・・というわけで待ちに待ったクルティシェフのソロリサイタルは待った甲斐があまりある素晴らしいものでした。
ありがとう♪( ´θ`)ノ
では公演情報です。
☆プログラム☆
リスト:愛の夢 第3番
ショパン:ワルツ 第5番 変イ長調op.42
ショパン:エチュード「革命」
ショパン:ピアノ・ソナタ第2番「葬送行進曲」
<休憩>
ラヴェル:夜のガスパール
プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第7番「戦争ソナタ」
☆アンコール
チャイコフスキー=プレトニョフ:『くるみ割り人形』より「グラン・パ・ド・ドゥ」
ショパン: 幻想即興曲
〜♪〜
2016年10月16日(日)15時開演
所沢市民文化センターミューズ アークホール
2015年8月にチャイコフスキーコンチェルトを弾いた時の記事もどうぞ~♪