2015年10月のショパンコンクールで素晴らしい演奏を聴かせてくれて、優勝者に負けず劣らず人気でだったカナダのピアニスト シャルル・リシャール=アムランをはじめてライブで聴きました。
コンクール期間中にはテディベアの愛称で親しまれたアムランの演奏は、とても温かく味わい深いものでした。。。
シャルル・リシャールアムラン|大器晩成型ピアニスト
アムランは、昨年2015年10月にポーランド ワルシャワで開催されたショパン国際ピアノコンクールに参加し、2位とクリスチャン・ツィメルマンプライス(ソナタ.ベスト・パフォーマンス賞)を受賞したカナダ出身26歳のピアニストです。
10代から多くのコンクールに出場し続ける演奏家が多い中で、アムランは、初めて国際コンクールに出場したのが2014年、24歳の時との事。
3つのコンクールに出場していずれも入賞したという大器晩成型のピアニストです。
「自然な演奏」と口で言うのはやさしいが・・・
私は、アムランの演奏を2015年秋のショパンコンクールでのネット配信で初めて聴き、その美しい響きと音楽の自然な流れに心奪われました。
コンクールは、演奏家としての自分をアピールする場でもあります。
参加するには、願わくば優勝したい!
そうでなくてもひとつでも上の順位が欲しい!
さもなくば、どこかのマネージメントからオファーが欲しい・・・
そんな本音から、ついアグレッシブになったり、エキセントリックになったり・・・「頑張った演奏」になるのが、人間というもの・・・
その中で、アムランは、作為なく、無欲に、作品と向かい合い、音楽があるがままに流れ、広がっていきます。
全ての音の流れが必然で、それゆえ、作曲家の想いや作品の真の姿が立ち現れるてくるのです。
プレッシャーのかかるコンクールのステージでこういう演奏ができるのは、凄いことです。
オール・ショパンプログラムでのツアー
今回の来日ツアーはオールショパン・プログラムです。
ショパンコンクール中、ワルシャワの聴衆にテディベアの愛称でと親しまれたというアムランは、なるほど大きな、丸い身体です。
緊張感なく、ゆったりとピアノへと進みました。
お辞儀が可愛い。。。
1曲目のノクターン ロ長調 op.62-1。
柔らかく豊かな響きがホール中に広がり、優しく包まれます。
その響きは繊細にして、多彩、まるで虹色の光の中にいるよう・・・
音楽の流れの自然さに、改めて驚かされました。
ここまで、《自我》を排除して、音楽をあるがままに感じ、そして演奏するというのは、並たいていではありません。
優しそうな風貌に隠された強靭な意志や自制心、そして勤勉を想いました。
袖に引っ込む事なく、続けて演奏されたのはバラード第3番変イ長調 op.47。
ショパンのバラード全4曲の中で、牧歌的なこの作品は、意外にいい演奏に出会うことが少ないのです。
ともすれば、きれいなんだけど、とらえどことなく終わってしまうこの作品を、アムランは、ウイットに富んだ魅力的な作品として聴かせてくれました。
”何より作曲家を尊重したい”との言葉通り
私が、この日、最も感動したのが、幻想ポロネーズ変イ長調 op.61です。
20歳の時に、母国ポーランドを離れ、以来、祖国の地を踏むことのなかったショパン。
彼の強い愛国心はポーランドの民族舞曲ポロネーズやマズルカを芸術作品として高め、数々の名曲を生み出しました。
中でも、最晩年のこの幻想ポロネーズは、祖国への想いと、祖国の将来への強い願いが込められています。
そのショパンの想いと、その想いを受けとめ、そのまま伝えようとするアムランの演奏からは、静かではあるものの、物凄い気迫が伝わってきて、圧倒され、聴いているうちに、鳥肌が立ち、目頭が熱くなってきました。
この作品の最後2ページに、ショパンの、「それでも絶望することなく未来を信じる祈り」が込められていると私は思っているのですが、そこは身体が震えました。
「何より作曲家を尊重したい」と語るアムランの、音楽に自身を捧げる決意や覚悟が伝わってきて、こういう人が、音楽家として生きる人と言うのでしょう。
凄い演奏に、打ちのめされるように力が抜けて、半ば放心状態のところで、前半最後の曲は、序奏とロンド変ホ長調 op.16。
ショパン23歳の時の作品。
とても瑞々しい響きと軽やかなリズムが心に染み渡り、ほっと救われました。。。
音楽って考えながら聴くものではないと思った
さて、後半は4つのマズルカ op.33から始まりました。
前半ですっかり力抜けて、後半は、もう何も考えずに聴いていました、細かいことをあまり覚えていません^^;;
それがとても心地よく、幸せでした。
あ~、音楽って、あそこがどうの、ここがどうした、ペダルがどうで、リズムが・・・とか、そんな風にごちゃごちゃ考えて聴くものではないんだな、と感じました。
そのまま、最後のピアノソナタ第3番ロ短調 op.58。
ソナタってドラマなんですよね。
音楽が映画やテレビドラマのような映像のあるドラマと違うのは、音楽は、空気の動きにドラマを感じるということ。
音は空気の振動ですからね。。。
アムランの響きは、優しく、豊かで、深いのです。
う~ん、愛に満ちているんだな。。。
守るべきものには命を賭けて立ち向かう、そういう優しく、強い、お父さん熊さんみたいな感じでした。
拍手も、熱狂的というより、温かかったですね。
それに応えて、2曲演奏してくれました。
ショパン 英雄ポロネーズとエネスコ パヴァーヌ(組曲第2番 Op.10より)。
心優しいテディベアの英雄ポロネーズは温かかったです。
エネスコは初めて聴く作品でしたが、しみじみ深く響いていました。。
サインが可愛い。。。
Thank you for your fantastic music!と言ったら、ちゃんと顔をあげて目を見てニコニコしながらThank you・・・と言ってくれました。
演奏が自己顕示欲や虚栄心を満足させる場になっている演奏家って、実は少なくありません。
アムランは、音楽と作品と作曲家への献身という、演奏家にとっての原点を本当に大切にしている演奏家でした。
ショパンコンクールの本選で弾き終わった後、2位を望んで、その通り2位になったアムラン・・・
当たり前に大切なことが当たり前に行われているのは、彼の強い意志と決意の賜物。
凄いことです。
生きていてよかった・・・
心底、そう想う一夜でした。。。
シャルル・リシャール=アムラン公式サイト
⇒CHARLES RICHARD-HAMELIN
シャルル・リシャール=アムラン 公演情報
シャルル・リシャール=アムラン ピアノリサイタル
☆オールショパン プログラム☆
ノクターン ロ長調 op.62-1
バラード第3番変イ長調 op.47
幻想ポロネーズ変イ長調 op.61
序奏とロンド変ホ長調 op.16
<休憩>
4つのマズルカ op.33
ピアノソナタ第3番ロ短調 op.58
☆アンコール☆
ショパン 英雄ポロネーズ
エネスコ パヴァーヌ(組曲第2番 Op.10より)
2016年5月23日(月)19時開演 東京オペラシティ コンサートホール