東響プレミアムコンサート・コンチェルトの競演@所沢ミューズ

日々、過ごす中でいろいろ不満も矛盾も感じながらも、ふつー、みんなこう思ってます。

自分ひとりでは何もできない、変わらない・・・

私も、もちろんそうです。

でも、ひとりで世界を変えてしまう人がいるんだなと感じた演奏会でした。

コンチェルトの競演と銘打たれた東響プレミアムコンサートにはるばる所沢まで出かけたのは、ミロスラフ・クルティシェフというピアニストを聴きたかったからです。

♪この記事を書いた人
Yoko Ina

音楽&ピアノ、自然、読書とお茶時間をこよなく愛しています

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 クルティシェフというピアニスト

クルティシェフは1985年ロシア サンクトペテルブルク出身、この演奏会の前日に30歳の誕生日を迎えたピアニストです。幼少時より神童ぶりを発揮し、10代には世界の名だたる指揮者と共演して世界中を演奏しています。

このコンクール全盛時代にあって、コンクール修行をせずに活動の場を得たラッキーな彼でしたが、20歳を過ぎて、先生に諭され、2007年チャイコフスキー国際コンクールに出場しました。

彼は、コンクールは嫌だと言ったそうですが、師は、「今やコンクールを避けて通ることはできない」と説得したそうです。

そうして、今や世界中に配信されるライブ&ビデオによって私は彼を知ることとなります。
最初に聴いた時に、度肝を抜かれました。

何だ!これは!

まばたきするのも忘れるほどに、PCの画面にくぎ付けになり、1時間ほどのプログラムを息を飲むように聴き入りました。

当然のようにファイナルに残り、チャイコフスキーのコンチェルトとプロコフィエフの3番のコンチェルトでとりつかれたような凄い演奏を披露しました。
プロコフィエフの方に最後ミスがあったものの、多くの人が優勝を確信しました、もちろん私も。。。

・・・が、結果は1位なしの2位。

つまり、1位にふさわしいレベルの人がいないので、1位はいません。
あなたは最高ですが、1位ではなく2位です、という意味です。
以来、プログラムの彼のプロフィールにはこう記載されています。

チャイコフスキーコンクールで最高位(1位なしの2位)を獲得。

そして、2010年ショパンコンクールに出場。
この時も、ファイナルに残ったものの、入賞することはできませんでした。
私は好きな演奏だったのですが、コンクールってコンクール向きの演奏などという意味不明なものがあって、点数つけるとわけわからない結果になったりするんですよね。。。
あの時も、運に味方してもらえない感じがあったな~。。。

経歴よりも実力が大事なのは確かにそうですが、しかし、ある種の悲劇を感じます。。。

 ファンを獲得するということ

それでも、インターネットのおかげで彼の演奏は世界中に知られ、彼のファンは増え続けました。

彼の演奏は、とても濃く独特の世界です。
マグマのように内側にたぎる音楽が、あふれるがごとく、時にきれいに形を整えるのが難しいほどのエネルギーと情熱がありながら、どこまでも高貴で、気品に満ちた輝きをたたえている・・・
強いて説明するとしたら、こんな感じでしょうか。。。

・・・で、そんな彼の演奏が聴きたくて、所沢まで出かけたわけです。
遠いと言っても、私などほんの2時間弱・・・

友人は北海道から泊りがけで聴きに来ました。
しかも2歳のお子様と一緒に・・・
演奏中はお子さんを託児サービスに預けて・・・

Twitter見ていたら、この日の所沢と翌日の新潟と両方聴いた人がいた!

ファンを獲得するってこういうことだな、と思った。。。

 ひとりのヴァイオリニストを変えた!

さてさて、演奏ですが・・・

前半のメンデルスゾーン ヴァイオリンコンチェルト、エルガー チェロコンチェルトもとてもよかったです。
実は、ヴァイオリンの神尾真由子さんは、クルティシェフ夫人です。今年誕生したお子様と一緒に3人で来日しているそうです。

神尾真由子さんはクルティシェフと同じ回のチャイコフスキーコンクールに出場し優勝していますが、当時、私は彼女の演奏が正直あまり好きではありませんでした。

この二人がデュオを組んで来日しても、クルティシェフのピアノソロを聴きたいといつも思っていまして、今日もまったく期待していなかったのです。

・・・が、演奏始まってみたら、

あれ?こんなに上品な演奏する人だったっけ?
ふつーに聴けるじゃん!
(以前はもっと毒々しい印象だった)

う~ん、こんなに変わるのかとびっくりしました。

恐るべしクルティシェフパワー。

 宮田大さんが素晴らしかった

お名前だけは知っていたものの、はじめて聴いた宮田大さんのエルガーがものすごくよかったです。

この曲、地味で暗くて、はっきりしたクライマックスがないし、演奏が悪いと息するのも苦しくなるようなどんよりした空気になります。

しかし、宮田さんの演奏は、この曲の、心の深いところでの本人さえも自覚できないような言葉にならない感情の揺れ、そんな心象風景を見事に描いていました。
この曲の演奏としては、屈指だったと思います。
これを、ここまでに演奏できるって凄い!

クルティシェフを聴きにこなければ、宮田さんのお名前だけは知っていても、演奏を聴くことはなかったかもしれません。

 オケも指揮者も変えた!

前半2曲が思いがけずよい演奏でしたが、それでも、「あ~、日本人ソリストと日本人のオケと日本人指揮者による演奏だな~」と諦めに似た宿命を感じながら聴いていました。

ところが、クルティシェフのチャイコフスキー コンチェルトが始まると・・・

オケの響きが違う!?
なんだ!なんだ!君たちやればできるじゃないか!

目隠しされて聴いていたら、前半と後半とオケも指揮者も違うと言われても疑わなかったに違いありません。

それくらい、オケも違うし、指揮者もクルティシェフモード。
みんな別人のように生き生き音楽していて、生まれ変わったように、生き返ったように、完全にクルティシェフの世界一色でした。

これは魔法か奇跡か・・・

たったひとりで数十人を別人に変えてしまったクルティシェフの凄さに驚きました。。。

 誰でも天才になれる?!

クルティシェフは、とりつかれたように集中して、まるで磁石のように磁場をつくり、世界を作り上げてしまうような凄さがあります。
だから、人の心を動かすことができるのですが、一方で、その極めて濃い演奏は、好みがわかれるのも事実です。

クルティシェフと一緒に演奏して、別人のように素晴らしくなったオケや指揮者を見ると、優れた指導者やリーダーがいれば、よくなる人がたくさんいて、世界もはるかによくなるのではないかと感じます。

しかし、クルティシェフは、自分がオケや指揮者をよくしようとか、そんな作為を持っていないでしょう。
彼は、心から音楽を愛し、作曲家への畏敬の念と作品へのdevotion(献身)から、ピアニストとしての自分のなすべきことをやっているだけに違いありません。

そして、また、オケのメンバーも指揮者も音楽を愛する人々であり、よりよいものに反応する何かがあったということです。

美しいものを美しいと感じ、
善いものに素直に反応する
それだけで世界ははるかによくなる・・・

ひょっとしたら、クルティシェフのようなひとりで世界を動かしてしまう天才も、実は、ごくごく小さな美しいものにとても敏感でそれらに素直に反応しているだけなのかもしれません。

だとしたら、誰もが自分で気づかないだけで、実ははるかに大きなことができるのかもしれないと思ったりします。。。

実は、誰でも天才になれるかも、いや天才なのかも?!

ともかく・・・

今年のベスト3に入るくらいよい一日でした。
はるばる出かけて本当によかった。。。

公演情報~コンチェルトの競演 東響プレミアムコンサート

☆プログラム
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64
エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調 作品85
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23

☆出演
神尾真由子[ヴァイオリン]
宮田大[チェロ]
ミロスラフ・クルティシェフ[ピアノ]
沼尻竜典[指揮]
東京交響楽団

【日時】 2015年8月22日 15時開演
【場所】 所沢文化市民センター ミューズ アークホール

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