「ピアノを習っている・・・」
と言ったら、
「えっ!聴きたい!弾いて!」
と言われた経験がありますよね。
昨今、立派なホールでの弾き合い会・練習会はもちろんストリートピアノもありますし、アマチュア対象のコンクール、仲間同士で演奏会を企画するetc演奏を披露する機会は沢山あります。
機会は沢山あるが、弾ける曲がない・・・
なんて悲しいじゃないですか。
日々練習するのは、好きな曲や憧れの曲を弾けるためですが、それはやはり聴いてくださる方がいて、作品の世界を共有してこそ!です。
とは言え、人前で演奏するのは大変なことです。さらっと暗譜で次から次へと弾けたらかっこいいですが、千里の道も一歩より、レパートリーも1曲から・・・
その一歩を成し遂げた方の体験記をご紹介します。
5年ぶりの人前演奏、10年ぶりの暗譜
オンラインレッスン11か月・・・5年ぶりの人前演奏、10年ぶりの暗譜を成し遂げたのは、以前にもご紹介したMiyokoさん(HN。愛媛県在住、アラフィフ)です↓

今回の本番について、赤裸々なご感想をいただきました。掲載を了承くださいましたのでご紹介します。
オンラインレッスンなら発表会はないよね、と入門したはずが・・・
以前通っていた教室の発表会では、年々本番で暗譜落ちすることが多くなり、視奏で出演は続けたものの、自分の思い描く演奏ができず、人前で演奏することさえも苦痛になって、だんだん練習すらも億劫になってきて、ついには20年通ったその教室をやめてしまいました。
しかし1年ほどたって、やっぱりピアノが恋しくなり、リモートの先生なら、まさか「発表会」はないだろう、できないよね、と入門を決めました。
ところが、その画面の向こうの先生は、わりと早い段階で、
「人に演奏を聴いてもらいたいと思わない?」
「本番を重ねてこそ、実力がつく」
「近くで弾き合い会のようなものはないの?」
などと尋ねてこられ、自分の思惑とちがう方向に状況が進もうとしていることに当惑し、のらりくらりと話をはぐらかしていたつもりが先生の絶妙なお導きで、いつのまにか、「ホールで演奏できる会を探してみます」と約束させられてしまっていました。「ただし、暗譜はご容赦ください」と念を押して。
探し当てて出演を申し込んだ会は、半年ほど先の開催でした。
たかが1ページ、されど1ページの暗譜修行
曲は「トロイメライ」。久しぶりの本番だから難曲に挑戦するより表現を深めましょうということで入門して最初に弾いた曲に決まりました。内容の深い難しい曲ですが1度弾いたし、1ページだし、半年あるし、視奏ならなんとかなるさ、と余裕で構えていて練習もそれほど身が入ってなかったかもしれません。
が、さすが先生はそれを見逃しませんでした。
ある日、「やっぱり暗譜で出ましょう!大丈夫!できるできる!」
と号令をかけられ、そこから暗譜するための修行が始まりました。
5年ぶりのホール演奏、10年ぶりの暗譜、譜面はたった1ページ。されど1ページ。「トロイメライ」は内声部の動きが複雑で、私には覚えにくかったです。
- 声部毎に覚える
- 曲の最後のフレーズから覚える。
- 曲の途中、どこからでも弾き始められるように覚える。
- 家に来るお客さんには聴いてもらうように。
- 自宅以外のピアノを弾いてみなさい。
- 頭の中で最後まで演奏できますか?指は動かしてはダメですよ。
など毎回たくさんの練習方法を伝授してくださいました。そのなかでも大変だったのは写譜。
「10回書けば、いやでも覚えられますよ。」と言われましたが楽譜を見て書くのではなく、少しずつ覚えて書くのは、ちっとも音を覚えられないダメダメな自分と向き合う最悪な時間・・・結局、2回書いたあたりで暗譜は完成?して先生も何もおっしゃらず内心ほっとしています。
本当に暗譜で弾けるのだろうか?
本番2ヶ月前あたり、一応暗譜できた時点で、譜面なしで弾いて聴いてもらう場をできるレッスンでも、友人の前でも、家族の前でも、短い曲なのに、様々な箇所でやはり暗譜落ちは発生し、まだまだ完璧とはほど遠いことを思い知らされ、本当にホールで暗譜で弾けるのだろうかと不安でした。
先生はそのたびに、
「驚くことはないです、そんなもんですよ。 それを繰り返すことで、完成度を上げていくんです。みんな同じですよ。」
と、慰めてくださいました。
先生ご自身の本番のための準備や経験、世界の巨匠といわれるピアニストも舞台の袖で震えていた話などを聞かせてくれ、最後には必ず
「大丈夫、できるから。」
と言ってくださいました。
久々に味わった本番後の清々しい気持ち
このようにして迎えた本番当日。
心臓はバクバクでしたが、なんとか止まらず、音を忘れること無く演奏できました。一瞬ですが、「おっ、さすがスタインウェイ!」ときれいな音が出せたようにも感じ本番が終わった直後の清々しい気持ちを、久々に味わいました。
帰りの車中では、もうルンルンで、鼻歌でトロイメライを歌いまくりでした。
「これで、なにか弾いてよ、と言われても、弾ける曲ができたな・・・。」 「この調子で何曲か覚えたら、演奏会も夢じゃないな・・・。」
などと無謀な空想までしてしまっていました。
子どもの頃から、たくさんの曲を人前で演奏してきましたが、今回ほど課題曲に真摯に向き合ったのは初めてです。これまでの向き合い方は、決して充分ではなかったのだと思い知りました。だから、だんだんうまくいかなくなっていったのか・・・
でも、以前はその具体的な方法がわかりませんでした。
やはり曲への向き合い方を教えてくれる人は必要です。課題を放り出したくなった時に、叱咤激励してくれる人も必要です。
本番のあと、すぐまた舞台に立ちたい、とは思いません。正直なところ、しばらくはやりたくないな、とさえ思います。
でも、新しい曲を勉強し、だんだんその曲の魅力を理解するにつれ、これもレパートリーにしたいなぁ、とコソっと思っている自分がいます。
実現できるよう頑張るのはもちろん自分なのですが、それを可能にしてくれる情熱をとノウハウをお持ちの先生がついていてくださるかぎり、自分はピアノが上手くなるし、レパートリーだって増えていく、と確信しています。
By Miyokoさん 愛媛県在住アラフィフ
【弁明】暗譜するプロセスがもたらすもの
5年ぶりの人前演奏、10年ぶりの暗譜への勇気ある挑戦と努力が伝わる、正直なご感想をありがとうございます。
えっと、読者の皆さまは、最初は「視奏でいい」ということになっていたのを「やっぱり暗譜で出ましょう」に変更したのはフェアじゃない!と感じたかもしれませんので弁明しますと・・・
私は、 “作品の世界をその人なりに精一杯表現していれば” 暗譜だろうが視奏だろうがどちらでもいいと思っています。
しかし、長い間弾いているにもかかわらず暗譜できないのは理由があります。その筆頭は”ピアノを弾く”ということが”PCの文章入力のように書かれた音の鍵盤を押すだけ”レベルになっているからというのがあります。
万年初級・万年中級と上級を分けるのはまず楽譜に描かれた音の意味を考え作品の世界をイメージするという思考です。それは楽譜をよく見て(読んで)音楽的に色々考えなければなりません。さらに言えば、音の意味などがわかるように楽典の知識やソルフェージュ能力も必要です。そしてそういう学習やトレーニングをしていくプロセスで音楽をより深く感じることができるようになり、作品を深く感じ考え、そして“こう弾きたい!”につながっていきます。
覚えようとすれば、よく楽譜を見るし、音の動きにパターンがあれば見つけようとするし、色々なことに気づきます。「何だ?これは?」と思うところは音楽的に”事件”ですから、その事件が伝わるように弾かなければなりませんが、そもそも”事件”だということがわからなければ表現しようがありません。
また、”初級者あるある”の指と耳だけで覚えたものは、緊張した時必ずエラーします。暗譜は”楽譜”を”意味をわかって”頭に入れなければなりません。そのためには写譜がとても効果的です。
やればいい事はわかるけれど、独りではなかなかできない・・・だから先生がいます。
レッスンは、
「ここは“f”と書いてあるでしょ!」「そこは“dim.”だから・・・」
と指摘されて言われた通りに反応するものではなく、
その作品は何を表現しているのかその“f”はどういう意図を持って書かれているのか
ということを考え、そして自分の表現として実現できるようにサポートするものだと私は考えています。
憧れの曲をそれっぽく弾きたいのであればその曲を演奏するにふさわしい思考法・練習法を身につけましょう。それは、ちゃんと導いてくれる先生に師事する以外にありません。
先生というのは、生徒のポテンシャルを最大に開花させるためにいるのです。
“大丈夫!できる!”はただの励ましや無責任な楽観主義ではなく、“あなたのポテンシャルなら出来る!”です。そして、
どうしたら出来るのかなぜ”大丈夫!できる!”と言い切れるのか
それは、洞察力と上達への戦略(メソッド)を持った先生なら当然のことです。もしも、生徒が”なぜ出来ないのか”わからないならその人にピアノを教える”資格”はありません。
ちゃんと学んで練習すれば長い間できなかったことが出来るようになるものです。先生はそのためにいます。